家政学分科会概要

日本学術会議 健康・生活科学委員会家政学分科会

日本学術会議と「家政学」との関わりは、第13期に家政学研究連絡委員会が設置された時に始まり、以来、第19期に至るまで家政学関連学会から一名の学術会議会員を送り研連としての活動を続けて来ました。
しかしながら第20期は会員選出方法の改訂により「家政学」分野からの会員が選出されない中で機構改革が進みましたが、他分野の会員の皆様、取り分け第20期の健康・生活科学委員会加賀谷淳子委員長のお力添えにより、生活科学(=家政学)との定義の元に生活科学分科会が設置されることになりました。

正式名称「日本学術会議健康・生活科学委員会生活科学分科会」は、平成17年10月に発足した第20期日本学術会議に設置された30の分野別委員会の一つである健康・生活科学委員会に所属する一分科会として「生活科学(=家政学)」との定義の元に第20期および第21期において分科会活動を展開して来ましたが、今期(第22期)の活動の中核にある「「家政学」分野の質保証」を検討するにあたり分科会名を「日本学術会議健康・生活科学委員会家政学分科会」と名称を改め「家政学」と正面から取り組み、「家政学」分野の質保証基準の作製に当たりたいと考えています。

因に、「家政学」は人間生活における人と環境との相互作用について、人的・物的両面から研究し、生活の質の向上と人類の福祉に貢献する実践的総合科学で、関連する人文・自然科学の研究分野や社会の諸問題を、生活する人の視点から統合的に捉え、他の学術分野と補完し合いながら、現代の変化に富む社会のニーズに対応するものです。

従って、人の暮らしや生き方に関連する今日的課題を総合的に検討し、全ての人が健康で生き甲斐を持って人生を全うするための方策を、生活者の視点に立って提案することを目的としています。

提言 他

提言:「被服学分野の資格教育の現状と展望」(令和2年9月7日)

被服分野における人材育成の重要性について社会的要求をもとに現状と問題点、今回の提言に至った経緯、特に、人材育成における被服分野での資格制度の重要性と制度改革の必要性を問題提起し、すなわち、1級衣料管理士養成大学、および関連企業や大学で現職にある各養成大学出身1級衣料管理士に対するアンケート結果をもとにこの資格の現状分析を行い、衣料管理士資格の将来展望を試み、我々の衣生活の質的向上に対するさらなる貢献を期待して、本提言をとりまとめるに至った。

提言:「住居領域における専門教育と資格教育のあり方」(令和2年7月27日)

本分科会では、報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準―家政学分野―」を公表した。そこでは家政学の定義、役割、家政学を学ぶ学生が目指すべき基本的素養に加えて、家政学を学修して取得できる資格についても触れられている。すなわち、家政学を構成する一領域として「住まうことに関する領域(住居領域)」が定義され、住居領域を深めることにより取得できる資格として建築士があげられている。
本提言では家政学部・生活科学部住居系学科を持つ大学の多くが取得できる資格とした「建築士」(一級、二級、木造)の資格教育と専門教育についてアンケート調査を実施し、その結果などに基づいて住居領域に関連する学科・専攻を有する教育機関を対象として、専門教育について提案を行った。

提言:「健康栄養教育を担う管理栄養士の役割」(令和2年7月27日)

本分科会では報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:家政学分野」において、「食べること」、「被服をまとうこと」、「住まうこと」、「子どもを産み育てること」、「家庭生活を営み社会の中で生きること」の領域を含む家政学は、社会生活の質の向上に寄与する分野であることを述べた。
現在の日本は超高齢化社会であり、その中で健康寿命の延伸が一つの課題と考えられる。家政学関連分野でこの問題解決で重要な役割を担える者として、「食べる」領域の指導・改善を行う管理栄養士があることから、本提言では、管理栄養士の社会における役割と、役割を担うにあたり必要な資質について提案を行った。

提言:「生きる力の更なる充実を目指した 家庭科教育への提案 ―より効果的な家庭科教育の実現に向けて―」(平成30年12月14日)

これまでに本分科会が、報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準―家政学分野―」、記録「家庭科及び家庭科教員養成に関する調査―これからのくらしに家政学が果たすべき役割を考えるために―」を審議・公表する過程で、家庭科教員の多くが教える分野に「得手」、「不得手」が見られたことから、分科会としては家庭科教員免許取得上の問題点を検討し、本提言の前に、教員養成の視点から、提言「生きる力の更なる充実を目指した家庭科教育への提案―教員養成の立場から―」を表出した。
そこで、本提言は児童・生徒にとってより効果的な家庭科教育の実現を目指し、家庭科教育の現状と問題点を挙げ、小・中・高等学校における家庭科について提案を行った。

提言:「 生きる力の更なる充実を目指した家庭科教育への提案―教員養成の立場から―」(平成29年9月20日)

第22期日本学術会議健康・生活科学委員会 家政学分野の参照基準検討分科会は、報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準―家政学分野―」を表出(平成25年(2013年)5月)し、そこでは、社会を構成する最も基盤となるのは人の暮らしや生き方であり、「家政学は、すべての人が精神的な充足感のある質の高い生活を維持し、生き甲斐を持って人生を全うすることができるための方策を、生活者の視点に立って考察し、提案することにある」とした。家政学分野で養成する唯一の国家資格である家庭科教員の重要性を改めて認識し、家庭科教員は家政学分野の大学において養成されていることを考えると、我々の生活のためには家政学及び家庭科教育の更なる充実が不可欠であることも再認識した。さらに本分科会では家庭科教育に関する二つのアンケート調査を実施した。一つは、小・中・高等学校時代に男女共修で「家庭科」教育を受けてきた大学生を対象に実施したもので「暮らしに関する情報や技は主として小・中・高等学校における家庭科教育から習得したものであり、彼らはそれを実際の生活に生かしている」との結果が得られ、男女共修の家庭科教育が子ども達の生活する力を育てるために重要な役割を担っていることを確信した。もう一つは、家庭科担当教員を対象に「家庭科」の柱となっている各分野(参考資料3参照)の授業内容に対する「得手」「不得手」について調査したもので、大多数の教員が「得手」「不得手」があり、教員間の授業内容に偏りが生じることが懸念される。それぞれの「得手」「不得手」は教員が学んできた専門領域によるところが大であったため、この原因を分析し、「不得手」な分野の少ない、力のある家庭科教員を養成するための改善策を提言としてまとめた。

記録:「家庭科及び家庭科教員養成に関する調査 ―これからのくらしに家政学が果たすべき役割を考えるために ―」(平成26年8月1日)

平成25 年5 月に日本学術会議から報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準―家政学分野―」が表出された。この中で、改めて家政学の社会的役割や家政学の学問的な特徴が明らかにされた。このことを受けて、本家政学分科会としては、健全なる社会の維持や国民の充実した生活のためには、家政学及び家庭科教育の更なる発展・充実が必要であることを再度確認し、そのために活動することを目指すこととした。
家政学は、生活に係わる多くの学問分野が深く関連しており、家政学を学ぶ者は、それらを理解し生活の場の問題として捉えることが要求される。このことが、家政学の大きな特徴の一つである。従って、家政学の教育分野を担う家庭科教育においても、広い知識が必要となる。現在の家庭科教育担当者がそれらの多くの分野を教えるためには、教員としての養成時に受けた教育だけでは困難が伴っており、それを解決するためにこれまで多くの努力が払われてきた。
そこで、本分科会では活動の第一歩として、家庭科教育のサポートのための方策を提案することが、家政学を専門とする者の役割ではないかと考えた。そのため、現在の家庭科教育の内容や教員資格取得制度の歴史的な変遷を概観し、更に、家庭科教育の受け止められ方、及び教師の現状の調査を行うことも含めて、再度家庭科教育の現状を把握して改めて考察し、今後の家庭科教員養成の質の確保のために資する家庭科教員養成のあり方を検討し、提言したいと考えている。
日本学術会議健康・生活科学委員会家政学分科会として検討結果から提言を行うことにより、家庭科教育の専門家が、たゆまず続けて来た発展・改善の努力を応援し、これからの持続・発展への一助になることを願って活動してきた。
本記録は、以上の趣旨で分科会活動を続けた結果、得られた成果である。

報告:「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:家政学分野」(平成25年5月15日)

2008 年(平成 20 年)5月、日本学術会議は、文部科学省高等教育局長から日本学術会議会長宛に、「大学教育の分野別質保証の在り方に関する審議について」[1]と題する依 頼を受けた。このため日本学術会議は、同年6月に課題別委員会「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」[2]を設置して審議を重ね、2010 年(平成 22 年) 7月に回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」を取りまとめ、同年8月に文部科学省に手交した。 同回答においては、分野別質保証のための方法として、分野別の教育課程編成上の参照基準を策定することを提案している。日本学術会議では、回答の手交後、 引き続きいくつかの分野に関して参照基準の策定を進めてきた。
今般、家政学分野の参照基準を取りまとめることを目的として、家政学分科会委員を中 心として「健康・生活科学委員会家政学分野の参照基準検討分科会」が立ち上げられ、家政学分野の参照基準が策定された。同分野に関連する教育課程を開設している大学をはじめとして各方面で利用していただけるよう、公表した。

提言:「食生活の教育」(平成20年7月24日)

生活科学は、人間の生活の視点から探求する学問であり、その成果を十分に人々の生活に反映させ、貢献する必要がある。
現在の日本の食生活は、食育基本法が制定された背景からも明らかなように多くの問題点がある。本来、食生活は個人の問題であり、個々人がどのような価値観で食を選択していくかが、社会全体の食の問題を動かすことになる。食生活の選択は、生涯にわたって個々人が受ける食生活に関する教育の帰着点でもある。食生活の教育、情報に関しては生活科学関連研究分野およびその分野で養成した専門職(保育士、教諭、管理栄養士等)が深く係わるべきであることから、本報告では、人間の一生における各ライフステージの食生活の現状と問題点、および食生活に関する教育の現状について分析し、より効果的な食生活の教育のための提言を行った。

その他

「人と生活」出版 2012.11
第22期日本学術会議会員および連携会員で構成された健康・生活科学委員会家政学分科会の全員からなる『「生活する力を育てる」ための研究会』によって刊行したもの。高度に経済成長した社会に生まれ育ち、これから社会人として社会を支える役目を担う大学生に対して、人と暮らしに関する総合的な教育が必要であることから「生活する力を育てる」ことを目指す内容の教養科目の開設を提案。講義のモデルとなるシラバスの提案とともに、テキストとしても利用可能な本を作成。
家政学会誌 報告 2014.11
日本学術会議健康・生活科学委員会家政学分科会「家庭科教育の現状調査」に関する活動報告 日本家政学会誌 Vol65 No11 p643-652 2014